6.
Texonomy of Cassette
(カセットテープ分類学) 


Back Exit Next
1. 前説と歴史的発展について
「人は3人以上集まれば派閥が出来る」というのは、何かの警句だったと思いますが、
「人は3種以上のモノを見ると分類したくなる」というのが分類学のココロでしょう。
元はと言えば、そもそも小遣いの乏しい学生時代に「如何に安く買うか」というのが動機(^^;
そのためにじ〜っくりと眺める訳です、カタログを。で、各メーカーで殆ど価格帯が重なる事実に気付く(当たり前だ^^;)。
次に、メーカー毎に同じ価格帯の製品を並べて一覧する。
すると、価格を比較する時にメーカーが違ってもグレードの差異が一覧出来るため、
「これはお買い得」というのが解るという・・・やってる事が殆ど主婦です
ね、これは(^^;
実際、中学〜高校時代はこれをレポート用紙に記入して折り畳んだ奴を持ち歩いてました。
もともとカセットには、より高性能(&高価格)な新種が出現した時に、価格や互換性等の問題から従来種が併存することが多く、
次第に「グレード」
が増えてきた経緯があります。
当初メモ用途(現在のマイクロカセットやICレコーダ)だったところに、音楽専用の高性能タイプ(LH)が出来て、更に上位規格の高性能タイプ
(CrO2,Metal)が増え・・・。
アナログ系メディアの場合、素材(テープの場合は磁性体等)の差がモロに信号品質に反映するため、かつてはあれだけ多種多様な品種が繁栄を誇っていた訳で
す。
カセットの先祖であるオープンリールテープでも、標準タイプの上にLH(高性能ノーマル)とEE(所謂ハイポジ)という上位規格を持っていました。
10年くらい前のビデオテープ(特にSを含むVHS系)を詳しくご存知の方は、当時10段階程度のグレードが存在していたことをご記憶でしょう。
現在のデジタル系メディアの場合、製品の熟成がある程度進むと、記録の信頼性と耐久性以外は殆ど差が無くなるので、
グレードもせいぜい業務用と民生用とそ
の中間程度。あとはデザインや記録容量の差異くらいのものです。
例えばMDでも、初期には各社ハイグレードタイプがあったのですが(TDK/XA-Pro,maxell/MD-XL,AXIA/MD-Pro)、現在
残っているのは本家のSony/ESのみ。
で、本題のカセットテープですが、グレードの発展には幾つかの歴史的段階があります。
1) 黎明期(1962〜1973)
カセット登場から音楽専用(LH)、クロム(TypeII)、フェリクロム(TypeIII)の登場。
2) 発展期(1974〜1980)
メタル(TypeIV)登場、ハイポジ(TypeII)の二酸化クロムからコバルト系への移行、グレードの細分化。
3) 熟成期(1981〜1989)
超高性能タイプの発展、フェリクロム(TypeIII)消滅、磁性体の多様化、ポジション間の価格帯のボーダレス化。
4) 衰退期(1990〜2000)
高性能タイプの衰退、オープン価格化による実質的な低価格化。ローエンドクラスの細分化。
5) 現在(2001〜)
メタル(TypeIV)消滅、LHクラスの事実上の消滅。
▲1) 黎明期 (1962〜1973) ・・・誕生と高性能化への萌芽
・1962 世界初のコ
ンパクト・カセット発売(蘭Philips/C-60),カセットレコーダも同時発売(同/EL-3300)
・1966 初の国
産カセット発売(東京電気化学,日立マクセル,ソニー等)
・1968 初の国産カセットデッキ発売(アイワ/TP-1009)
・1970頃 音楽
専用グレード(LH;Low-noise/High-output)発売(TDK/SD,maxell/UD,Sony/HiFi等)
・1971 世界初のク
ロームテープ発売(西独BASF/ChromeDioxide)
・1973 世界初のフェ
リクロームテープ発売(ソニー/Duad)
会議・取材用途で生まれたカセットが、次第に音楽用として認知されていく時代。
まだまだ音楽用としてはオープンリールが健在で、当初はメモ用程度の認知(性能)でした。
また、カーステレオといえばリアジェット式8トラックカートリッジ。所謂昔のカラオケ用テープですね。
この時期、現在の次世代DVDのように、小型録音テープのカートリッジ規格争いがあり、独グルンディッヒ、テレフンケン、ブラウプンクト、米アンペッ
クス、RCJ、等々、各社似たようなサイズの規格が策定されていましたが、これらを抑えてデファクト・スタンダードの座に就いたのが蘭フィリップスの
"Compact Cassette"でした。
これはひとつには、同社にパテント交渉に赴いたソニーの当時のトップが"パテントの無償公開"を承知させたため、参入メーカーが相次いだ結果、勝ち
残ったのだと言われています。・・・βの時にはそれが全っ然生かされてないのね、ソニーさん(T-T)
それはともかく、欧州での発売から4年後、現在でも有名な3社から国産カセットの第一号が発売、翌々年、名カセットデッキメーカーとして名高いアイワ
が(現在はソニー傘下)初の国産カセットデッキを発売。国産化への扉が開きます。
やがて、音楽用途を視野に入れた"音楽専用"と銘打った高性能タイプ(TDK/SD)が発売。
また、γ酸化鉄では弱い高域特性をカヴァーすべく米デュポン開発の二酸化クロムを用いた音楽専用タイプが発売(後にIECでTypeIIに認定)。徐
々に音楽用途としての道を切り開いて行きます。
またこの頃、日本の誇る録音機器メーカー、ナカミチが世界初(!)の単品デッキタイプを発売、世界のメーカーの度肝を抜いたそうな。
この時期の掉尾を飾る出来事として、未だにマニアの心を捕らえて離さない(^^;フェリクロムテープが発売(後にIECで認定されTypeIII
に)。このフェリクロムの影響か、高性能タイプには二層塗布が後々多用されます。
▲2) 発展期 (1974〜1979) ・・・高性能化への模索と基礎の完成
・1974頃 ノーマル音楽専用タイプの高級グレード発売(maxell/UD-XL等)
・1975 コバル
ト被着酸化鉄系磁性体採用のハイポジションテープ発売(TDK/SA等)
・1977 マグネタイト酸化鉄系磁性体採用のノーマル高級グレード発売(TDK/ED)
・1978 コバルトドープ酸化鉄磁性体採用のハイポジション/フェリクロムテープ発売(DENON/DX5,DX7)
・1978 世界初のメ
タルテープ(米3M-Scotch/Metafine)登場、メタル対応カセットデッキ発売(ビクター/KD-A6)
・1979 超高級ハイエンド・メタルテープ、TDK/MA-R発売。後年のSony/MetalMaster発売までは文字通り"Top of
Cassette"として君臨。
・1979 世界初のポータブルヘッドフォン再生専用機"Walkman(TPS-L2)"発売。
その簡便さもあって、オープンに代わり家
庭用に普及したカセットが、HiFi音楽用途としての更なる模索を続けた時期。
この時期、公害問題が各地で起こり、その煽りを喰ってハイポジションの磁性体、"二酸化クロム"からの脱却が始まります。・・・念のため、"煽り"と
いうのは工業廃液の"六価クロム"の公害問題。二酸化クロムはこれとは別物です。もっともそれ以外にも、パテントホルダーである米デュポンとの柵もあった
ようなのですが(特許料とか色々)。
で、国産各社が行き着いたのが、γ酸化鉄を核に、表層にコバルトの金属イオンを分子レベルで結合させた磁性体、コバルト被着酸化鉄。
低域に弱点があったため、フェリクロムというある意味苦肉の策をとらざるを得なかった二酸化クロムと比べ、こちらは核にもともと中低域に強いγ酸化鉄
があり、表層のコバルトイオンが高域を受け持つといういわば分子レベルの二層塗り。更に、コバルトの添加量の調整によって様々にチューニング可能というあ
る意味音楽用としては理想的な磁性体でした。
応用範囲も広く、後にビデオテープ、磁気ディスク(FD)等、安価に良質な媒体を生み出す礎となっていきます。原理は同じですが、各社微妙に製法が異
なるそうです。"Avilyn","Epitaxial","Beridox","UltraGamma
(Uniaxial)"等、名前を聞いただけで懐かしい方もいるのでは?
また、その他にも様々な磁性体が試されていた時期でもあり、同じコバルト系でも日本コロムビア(DENON)の初期DX5/DX7に採用されたコバル
トドープ酸化鉄という、酸化鉄の一部をコバルトイオンに置換した酸化鉄や、TDK初期の高級ノーマル、EDのみで用いられたマグネタイト酸化
鉄(γ酸化鉄とは分子構造の異なる黒色の酸
化鉄)等がありますが、何れも安定性や転写特性の問題から、短期間で廃れてしまいました。ただし、マグネタイトは後に安定性の問題を解決して、本来の高エ
ネルギー特性を生かした磁性体として生まれ変わることになるのですが・・・。
また、ノーマルの音楽専用タイプの更に上級タイプも生まれました。なんと、当時のクロムテープと同価格帯。後のAR-XやXLI-Sのグレードです。
ただ、これはフェリクロムを発売していないメーカーのみの発売(TDK/ED,maxell/UD-XL,Fuji/FX-Duo)だった事を鑑みる
に、どうも当時、高性能ノーマルとしても用いられていたフェリクロムの対抗商品としての側面があったのかとも思われます("二層塗布"を強調したFX-
Duoの例な
ど)。
そして、この時代の最後、カセットの将来を決定する2つのモノが生まれます。
まず、メタルテープ。米3M(Scotch)が威信を懸けて開発した純鉄(酸化していない、分子式で言うFeのみなので"純")磁性体。
鉄が錆びやすいのはご存知のように、それまでは素材としての良さは解っていても、酸化の問題から使用されていませんでしたが、表層に酸化鉄やコバルト
をコーティングする等して実用化に至りました。ハイポジションの約2倍もの磁気エネルギーを有する、ある意味究極の磁性体です。どれくらい凄いかというの
は、カセット並の小さな8mmビデオが、あのサイズで数倍のテープ幅&速度のVHSと互角の画質を持っている点でも解ります(8mm=メタル、
VHS=コバルト被着系)。
これが、やがて来る'80年代にカセットデッキの高性能化とも相俟って一般家庭からマニアまでの幅広い支持を受けるに至ります。尤も、こちらも本格量
産化したのは日本の材料メーカーで、本家3Mはメタル第1号のMetafineを発売こそしたものの(市場の競争激化もあるのでしょうが)後継機を出すこ
とも無くさっさと撤退してしまいますが・・・。尚、後のメタルの低価格化には、前述の8mmビデオの普及で純鉄磁性体の需要が増加し、量産効果で価格が下
がったためとも言われています。
尚、日本ビクターは早くからメタルに積極的で、初のメタル対応デッキは同社の発売です。同社のカセットは'80年代初頭までは基本的に
DENON/DXシリーズのOEMですが、唯一メタルのみは自社開発(ME-Proシリーズ)だった程。
そして、ウォークマン。知らぬ人無き、Oxford(英国の有名な辞書)にまで載ってしまった誉れ高きMade in Japanの音響機器。
それまでもラジカセをレジャーに持ち出すことはあったものの、これが出て初めて、個人レベルで音楽を楽しむ環境が整ったと言えます。Walkman
が無ければiPodも
GigabeatもRioも無いのですから。・・・
まぁ、当時は色々社会問題にもなってたようですが。今の携帯と同じですかね(^^)。
▲3) 熟成期 (1980〜1989) ・・・
低価格化と多様化・混沌化、高性能化の絶頂
・1983 純鉄(メタル)系磁性体採用のハイポジションテープ(TDK/HX,DENON/DX8,That's/EM等)発売。
・1983 太陽誘電、That'sブランドで参入。初の低価格ハイポジション、EMを発売。翌年以降、maxell/UDII('84)を筆頭に各
社
('85)低価格ハイポジション発売。
・1984 富士写真フイルム、ブランドをFUJIからAXIAへ変更。アイドルCM路線の先駆けとなる。社名も富士フイルムアクシアへ。
・1984 世界初のコ
バルト磁性体蒸着テープ(National/AngromDU)発売。当初はハイポジションのみで、翌年のモデルチェンジ時に
ノーマルとメタルも追加。
・1980中期 各ポジションのグレード細分化。この頃から、ポジション=価格帯から、グレード=価格帯へと商品構成が移行。
・1988頃 各社低価格メタルテープを発売。メタルの低価格化またはグレード細分化。
・1989頃 最後のフェリクロム、Sony/Duad販売終了
・1980代後期 3M-Scotch,BASF等の海外大手メーカーが日本市場より実質的に撤退。(3Mはビデオ・FD等は残る。後Imation
へ変更)
カセットが民生用オーディオの主役となり、本格HiFi録音機としての熟成を迎える時期。
'70年代終期の高性能磁性体の登場により、カセットの音質は飛躍的に発展、1/2"オープンリールテープに届かぬまでもかなり近付いたと言えるレベ
ルに達します。
また、磁性体のフレキシビリティによりポジションを超えた使い方が増え、かつてのように磁性体=ポジションではなくなります。本来はTypeII用の
コバルト被着酸化鉄系がTypeI高級機に、TypeIV用の純鉄がTypeII高級機にと、ある意味かなり混沌とした状態に。
そして混沌は価格面にも及び、かつてはポジション=グレード=価格だったものが、低価格ハイポジや低価格メタルの発売によりポジション間でのグレード
が横並びになる状況に。
▲4) 衰退期 (1990〜2000) ・・・高級市場の縮小と音楽メディア第一線からの後退
・1991 maxell,Victor等、一時廃れていたマグネタイト系酸化鉄を核にしたコバルト被着酸化鉄磁性体(Cobalt-Magnetite)
採用のテープ発売。同時にビデオテープも。
・1991頃 各社ハイエンド、最終モデル発売(AR/SA/MA-X,XLI/II-S.Metal-XS,)
・1990中期 DENON,Konica,Victor等、自社生産を中止、海外製OEM品のみとなる。That's、カセット,DAT等の民生用磁
気テープ市場撤退。
・1995頃 各社高級グレード、最終モデル発売
・1997頃 各社メタルテープの販売終了
・1998 最後のメタルテープ、TDK/MA-EX発売。
・2000 最後のハイエンド・ウォークマン、西暦2000年記念モデルWM-EX2000発売。
・2000 各社音楽用ローエンドシリーズのノーマル(TDK/CDing1,Sony/CDix1等)、LHからLNへグレードダウン
カセットが本格オーディオ用途から雑貨へと変質していった時期。
バブルの残り香ありし'90年代初頭、かつて廃れていたマグネタイトが再び日の目を見ることになります。日立マクセルと日本ビクターが、これを核にコ
バルトイオンを被着されることで通常のコバルト系を凌ぐ高出力を持つ新磁性体、"Black
Magnetite"を開発、高級(HG以上)クラスのビデオテープやカセットに相次いで投入します。
そしてバブルが弾け・・・という常套句はさておき、この時期、民生用の高級機をDATに喰われてしまったこともあり、最高級グレードというべきメタル
の超ハイエンド級が消滅します。約10年を以て、長らくカセットの頂点に君臨したTDK/MA-R系もその命脈を絶たれます。そして、これ以後、高級テー
プ市場は雪崩を
打って崩壊していきます。
象徴的な出来事としては、'90年代中期に自社開発からの撤退が相次ぎ、'80年代の新規参入組の太陽誘電、コニカ、古参のコロムビア、ビクター等国
産中堅メーカーが相次いで第一線を退きます。それでも多くが海外製のOEM品を残す中、太陽誘電は綺麗さっぱり足を洗い、やがて世界初のCD-Rメーカー
としての地位
に就くことに。アクシアはいち早く、ローエンドLNクラスをモデルチェンジ(UP→A1)に併せて、海外製のOEMに切り替えています。これ以降、他社も
量販店向け
パッケージ品を発売します。
そして'90年後期、各社の高級グレード及びメタルの生産中止。事実上、カセットはLN、音楽用LN、低価格ハイポジのみという'60年代にもどった
かのような散々な状態に。
それを象徴するかのように、CDix1,CDing1といったかつてのLHクラスのローエンドタイプが軒並みLNクラスにスペックダウン。海外製が多
くなっていきました。そんな中、抵抗するかのように高級メタルテープ最後の残り火が灯ります。TDK/MA-EX。他社が軒並み生産中止した直後なだけ
に、あの頃の感動は
一入でした。
また、この頃はカセットを完全に見捨てていなかったソニーから(ちょっと皮肉)、西暦2000年記念の一環として、当時のハイエンド機のメカを流用し
たアニバーサリーモデル、WM-EX2000が発売。今に至るも"最後のハイエンド・ウォークマン"として名高い名機です。ただカセットウォークマンはこ
れ以降、縮小の一途を
辿っていきますが・・・。
▲5) 現在 (2001〜) ・・・HiFi音楽メディアとしての終焉とささやかな抵抗
・2001頃 最後のメタルテープ、TDK/MA-EX販売終了。
・2003 maxell、米国版XLIIをWeb限定にて販売開始。
・2004 Sony、最後のESシリーズ3ヘッド・デュアルキャプスタン高級カセットデッキ(TC-KA3ES)生産中止。
・2004 TDK、米国では残存していたメタルテープ(MA)及び高級ハイポジ(SA-X,SA)の販売終了。
・2004 TDK、米国版SAの在庫品をWeb限定にて販売開始。第一便は開始後数日で完売。
・2004 TDK、6年振りにLNタイプの基幹機種AEをフルモデルチェンジ。
・2005 TEAC、最後の3ヘッド・デュアルキャプスタン高級カセットデッキ(V-1050)生産中止。
・2005 TDK、NHK"プロジェクトX"放映を記念し、在庫品のMA-EXを限定販売。
先祖返りの時期。そしてカセットは真の趣味のアイテムへ・・・
最早、何をか言わんですが、販売終了のオンパレード。とほほ。
特に痛いのは21世紀を迎えて最後に残った3機の民生用3ヘッド機のうち2つが相次いで無くなったこと。残るはパイオニアだけ・・・。ミニコンポ類も
メタル対応など以ての外で、ハイポジ使えるだけまし、ノーマル専用なんてざら。ドルビーって何?てなもんです。
その中で、僅かながら明るいニュースといえば、Web限定ながらmaxell/XLIIとTDK/SAの2大リファレンスが復活したこと。そして
TDKがLNのみとなった現状を打破すべく、AEのフルモデルチェンジを断行したこと。
カセットはこれから何処へ逝く行くので
しょうか・・・

To the Top
of This Page